東京高等裁判所 昭和27年(行ナ)24号・昭27年(行ナ)25号 判決
原告 東邦紙業株式会社
被告 特許庁長官
一、主 文
原告の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
第一請求の趣旨
原告訴訟代理人は、「昭和二十六年抗告審判第二一三号事件及び同第三三三号事件について、特許庁が昭和二十七年七月十二日になした各審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。
第二請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。
一、原告は、昭和二十四年十一月二日特許庁に対し、
(1) 波形屈曲紙と予め文字、図形、模様等の印刷せられた平面紙との貼り合わされた段ボールの構造(昭和二十四年実用新案登録願第一七九一一号事件、実用新案の名称段ボール)
(2) 波形屈曲紙と予め文字、図形、模様等の印刷せられた平面紙との貼り合わされた段ボールで作られた物品保護函の構造(同第一七九一二号事件、実用新案の名称物品保護凾)について、実用新案の登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、前者につき昭和二十六年四月七日(昭和二十六年抗告審判第一二一三号事件)、後者につき同年五月七日(同第三三三号事件)それぞれ抗告審判の請求をなしたが、特許庁は、両者について昭和二十七年七月十二日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年七月二十二日原告に送達せられた。
二、審決において、特許庁は、昭和八年実用新案出願公告第一〇九六六号公報に、段ボールに印刷したものが、容易に実施することができる程度において記載されており、これを原告考案の「段ボール」及び「物品保護函」を構成する「段ボール」と比較して見ると、(イ)原告考案のものは、平板紙に予め印刷したものを波形屈曲紙に貼り合せるのに対し引用のものは平板紙と波形屈曲紙を貼り合せて作つた段ボールに印刷を施したものであつて、その製作方法としての順序は互に相違するが、製作した物品の構造としては、格別の差異は認められない。(ロ)印刷条件によつては、後者のものでも、前者と同程度の鮮明さに印刷することが可能であり、又もし仮りに印刷の鮮明度に差異があるとしても、それは程度の差に過ぎないのであつて、これによつて前者は後者の類似の範囲を脱したものとは認め難い。そしてまた(ハ)段ボールを以つて、物品保護函を作ることは、本願出願前普通に知られているところであるから、結局原告の考案は、全体としては、(1)「段ボール」については、原告の出願前国内に頒布された刊行物である引用例に容易に実施することができる程度のものと類似するものと認められるので、実用新案法第三条第二号の規定により、同法第一条の新規な実用新案と認め難いとし、(2)「物品保護凾」については、前記引用例から、当業者の容易に考えられるものと認められるので、同法第一条の登録要件を具備しないものと認めるとしている。
三、しかしながら、右審決には、次のような違法がある。
(1) 審決が引用した前記実用新案出願公告に記載されている機械は、段ボール印刷機とは云つているが、実際には印刷機でない。けだし印刷とは、印刷版の文字、図画等を印刷インキによつて紙面に刷り出すことをいうのであるのに、右の機械にかけられた段ボールには、護謨版からインキはつけられるが、その文字、図画等は決して再現されない。従つて審決が、右公報を引用して、段ボールの平面紙に直接印刷することは公知であると説示しているのは、全く事実に違背し、到底本件考案の新規性を阻却し得ない。
(2) 仮りに右機械が印刷機であるとしても、右引用の公報からは、段ボールの平面紙に印刷したものの得られることは認められるが、その印刷は必然的に不完全であるのに対し、本件「段ボール」及び「物品保護函」を構成する段ボールの平面紙の印刷が完全無欠である以上、引用公報の印刷機で得られる段ボールと本件考案のそれとは著るしく構造を異にすることは明白である。そして審決が、原告の考案の段ボールは、予め文字、図形、模様等を印刷した平面紙を波形屈曲紙に貼り合わせた構造に係るものだとしてある表現は、引用公報所載の印刷機より得られる段ボールとの右の構造差を確認させるものであるに拘らず、審決が製作方法の順序は違うが、製作した物品の構造には格別の差違がないと断じたのは、認定に錯誤があり、違法のそしりを免れない。
(3) 審決引用の公報に記載されている段ボール印刷機によつては、ロールに懸けられる段ボールの平面紙のうち、凹部上の部分は、印刷用護謨版の圧力に対応し得るものがないので、印刷インキの着きが悪いか、全然インキが着かない筈であり、従つて平面紙面に表わされる印刷は、だんだらになることは必定であるのに、審決は何等具体的に十分これを釈明することもなく、漫然、印刷条件によつては、両者は同程度の鮮明さに印刷することが可能であるとしているのは、理由の不備不尽を免れない。
(4) 審決は、本件段ボールと引用公報所載の印刷機による段ボールとにおける印刷の鮮明度の差同を云々しているが、前者では、原版即ち印刷用護謨版の図柄通りの印刷がなされるのに対し、後者では、原版の図柄の如何に拘らず、段ボール紙面には、常に、必ず、だんだら模様の印刷がなされるから、前者が鮮明で、後者が不鮮明だ、などというのではなくて、実に同一原版を使用しながら、両者の印刷は全然図柄の違つたものとなり、引いては構造上大差をもたらすことになる。従つて審決が印刷の鮮明度の差異は、程度の差に過ぎないと認定しているのは、全く事実に即さないものである。そして、本件考案によれば、従来の電球サツクにおける如く、その製品上に、更に別に、文字、図形、模様等を表わした紙を貼り付ける要なく、頗る経済的に、所要の物品を作製提供し得られ、かつ段ボール構成のために使用される紙の厚薄如何にかかわらず、平面紙上の文字、図形、模様等を鮮明に表わすことができる新規の実用的効果を奏呈し得られる。本件段ボール及びこれによつて構成される物品保護函について、前述のように説示して、登録すべからざるものとなした審決は、不当である。
第三答弁
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因事実に対し、次のように述べた。
一、原告主張一及び二の事実は、これを認める。
二、しかしながら三の主張はこれを否認する。すなわち、
(1) 引用公報に記載された機械が、印刷機であることは、多言を要しない。
(2) 本件の「段ボール」は、その平面紙に印刷によつて、表示される文字、図形、模様等には、何等限定がなく、又引用例から製作されるものにも、同じように限定がないから、両者を比較して著るしい差異があるとは認められない。また原告が引用した審決における表現は、決して引用例から得られる段ボールとの顕著な構造差を確認させるものではない。
(3) 本件のものに使用する紙の種類及び印刷される文字、図形模様等は、どんなものでもよいのであるから、引用例のものでも、これに印刷するのに最も適した紙、図柄を選んで印刷する場合、両者には同程度の印刷効果が得られることは、明白である。
(4) 実用新案の類否の判断に当つては、両者が同じ原版を使用するかどうかというような方法的条件による効果は、考慮すべきではなく、製作されたものの構造自体の効果のみを考慮すべきは当然で、これに反する見解に立つ原告の主張は、採用の限りでない。
第四証拠<省略>
三、理 由
一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。
二、その成立に争のない甲第一号証の一、二(両事件における実用新案登録願、説明書)及び甲第二号証(同じく説明書中訂正の件)によれば、原告の登録出願にかかる前記(1)「段ボール」の考案の要旨は、「波形屈曲紙と予め文字、図形、模様等の印刷された平面紙との貼り合せになる段ボールの構造」にあり、同(2)「物品保護函」の考案の要旨は、「波形屈曲紙と予め文字、図形、模様等の印刷された平面紙との貼り合された段ボールで作られた物品保護函の構造」にあることが認められ、その成立に争のない乙第一号証(昭和八年実用新案出願公告第一〇九六六号公報)によれば、審決が引用した昭和八年七月二十六日附の実用新案出願公告には、段ボールの平面に印刷する機械の構造、作用、効果が記載してあることが認められる。
三、原告は、右公報に記載された機械は印刷機ではないと主張するが、印刷機とは、広く原版に直接の圧力を加え、原版上の文字、図形等を紙その他の材料の上に再現させる機械を指称し、その再現が多少不完全であることは必ずしも印刷機であることを妨げないと解すべく、右公報には、段ボール用ロールの凹凸に対し、印刷版用ロールには、これと反対の凹凸を設け、印刷版と段ボールとの接触度を均等ならしめ、濃淡なく印刷版上の図形を段ボールの上に再現させるような機械についての記載があるから、これを印刷機と認定するに何の支障もない。
そして、右引用にかかる公報によれば、審決のいう「平板紙と波形屈曲紙を貼り合せて作つた段ボールに印刷を施したもの」、換言すれば、「波形屈曲紙と白紙である平面紙との貼り合せになりその後で右平面紙に印刷を施した段ボール」の構造が、原告の本件新案登録出願に先だち昭和八年当時、すでに容易に知ることができる程度に、右公の刊行物に記載されてあつたことが認められる。
四、次に実用新案法が、登録することにより、権利の保護の対象とする、同法第一条にいう物品の型とは、物品の形状、構造又は組合せを実現するための方法、順序の如何は、型の類否について、何等の影響をも来すものでないと解するを相当とする。して見れば、前述のように原告の本件考案の骨子をなす「波形屈曲紙と予め文字、図形、模様等の印刷された平面紙との貼り合せになる段ボール」と引用例から容易に知ることができる「波形屈曲紙と白紙である平面紙との貼り合せになり、その後で右平面紙に印刷を施した段ボール」とは、全然同一の構造、換言すれば、同一の型のものであつて、原告の考案と引用例とにおける用語上の差異は、つまるところ実用新案法上、物品の型とは無関係な、その製作工程における順序を表現しているものに外ないものと解せられる。
なおまた右段ボール上の印刷の精否如何も、型の認定については、何等の関係を持つものではないことは、前述のところから明らかであり、更に審決が、前記公報を引用したのは、結局前記三に述べたような構造が、原告の出願前刊行物の記載により知り得たことを示すためであつて、あえてこれに記載した印刷機の作用、性能についてこれを引用したものではないから、右機械の作用、性能に基いて、審決を非難することも当らない。
五、すでに「段ボール」の構造が新規な実用新案と認められない以上、段ボールを以つて物品保護凾を作ることは、原告の出願以前から公知の事柄であるから、右「段ボール」で作られた「物品保護凾」の構造も、実用新案として登録するに値いしないものであることは、いうまでもない。また原告代理人は、原告の考案によれば、従来の保護凾に比し頗る経済的に、かつ材料の如何にかかわらず、図形等を鮮明に表わすことができると主張するが、右は型そのものの効果ではなく、つまるところ、原告の採用した方法による効果に外ならず、実用新案が物品の型について存し、方法について存せざる以上、右の主張もまた採用することができない。
六、以上の理由により、審決には原告の指摘するような違法はないから、原告の本件請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 判事梅原松次郎は退官のため署名捺印することができない。 裁判長判事 小堀保)